2020/08/09
『ドント・ルックバック』2周目がより萌える。不器用な男の愛を感じるジョシュ・ラニヨンさんの短編
この長さで上質なミステリーというのは難しいですが、今作は巻き込まれサスペンスな感じで、ロマンス重視で読むと楽しめますね。
また、ジョシュ・ラニヨンさんのクリスマス・コーダに、ピーターとグリフィンのショートストーリーがありました。
Christmas Coda 39, Peter and Mike from DON’TLOOK BACK - JOSH LANYON'S BLOG
※各英文の翻訳部分は私の意訳です。間違ってたら教えてください!
あらすじ
甘い夢からさめると病院のベッドの中だった。美術館に勤務するピーターは頭を殴られ意識を失い、そのショックで記憶障害を起こしていた。警察の取り調べが始まり、ピーターは自分に容疑がかかっていることに気付く。自分は犯罪者なのか―そして夢に出てくるあの魅力的な男の正体は―。記憶とともに甦る、甘く切ない思い出。極上のミステリ・ロマンス。Source : ドント・ルックバック
カップリング
ピーター・キリアン
コンスタンティン・ハウス美術館の学芸員(3年ちょっと)、35歳、LA出身。
茶色いウェーブがかった髪に、グリーンの瞳。地味なイメージ。
暴漢に襲われ頭を強く打った後、外傷性ではなく心因性で、ある一定の期間、一定の人々や出来事の記憶を無くしている。
ロマンス小説を読むって書いてありましたけど、M/M読んでるんでしょうか?
マイク・グリフィン
ロス市警の強盗殺人課の刑事。
長身、ガチムチ、ダークヘア、ブルーグレイの瞳、薄い唇。
半年前にピーターと出会い、デートを重ねるも別れている。
その他の登場人物
今回は登場人物も少なかったですね。
ピーターサイド
- ローマ・・・・親身になって助けてくれるピーターの友人
- ジェシカ・・・ローマのパートナー
ピーターと彼女たちの関係も特に描かれてなかったですね。
悪者サイド
- コール・・・・ピーターの大学のルームメイト、雇い主、"親友"
- ハーシェル・・質屋でコールの共犯者
非常に分かりやすい構図でした。
最初っから怪しかった人物が犯人でしたし。
ガチムチと陰キャのカップル
先日、Discordチャットコミュニティで、ガチムチと陰キャのカップルはアメリカM/Mにおいて定番と教えてもらったんですが。
主人公ピーターの職業は美術館の学芸員で、オタクで地味なイメーシ。
そして、彼の性格も大人しいというか暗いというか。不器用で真面目で人が良さそう。
お相手のグリフィンは、いかにもアルファ男子って感じの、大きい体(太ってはない)で強そうで、職業も刑事。
話し方はぶっきらぼうな感じだけど、不器用で優しい。
全然見た目も性格もバックグラウンドも違う2人が恋に落ちるのは、やはりロマンスの基本かもしれませんね。
ピーターと一緒に混乱
物語は、ピーターが病院のベッドで目を覚まし、記憶がない状態で窃盗犯の疑いをかけられているところからスタート。
ピーター自身も記憶がないので何も分からず混乱してますが、読者も同じく情報が足りない足りない。
容疑者になり、職も失い、キャリアも絶たれ、住むところも失い…と、もうどんどん状況が悪くなっていって、八方塞がりで見てられないんだけど、霧の中で手を伸ばしながら進むように、少しずつ少しずつ記憶を取り戻しながら、ピーターと一緒に混乱しながら真実を探していく感じ。
なので、物語序盤は話の展開もスローだし、ピーターの性格もあって、何だかすっきりしないどんより陰鬱な空気が流れます。
しかし、物語後半から話がグイグイ動き出すし、ピーターはピーターなりに健気に頑張り始めるので、前半だけで読むのをやめないで!
コールの洗脳
ピーター宅のお酒が入っているキャビネットに、いつコールが立ち寄ってもいいように、コールの好きなウィスキーをストックしてあるシーンを読んで、よく躾けてあるなーと思いました。
それ以外にも、周りが何と言おうとも、コールを慕ってしまうピーターがもうイライラするほど不憫で。
でも、洗脳ってそういうものですよね。怖い怖い。
別に特別なものじゃなくて、日々の生活で、例えば親から教わることや、学校教育も洗脳の1種ですし。テレビなどのメディアの情報もそう。
誰しも何かしら、自分で選んでるように思えて、誰かの意図した方へと動いてしまってると思います。
(もちろん、その全てが悪いわけではないですけど)
なので、「ピーター、何でそんな男に操られるの!?」「何でそんな人生を歩んでるの!?」って、側から見てると思ってしまうけど、簡単に抜け出せるものじゃないですよね。
2周目グリフィンの可愛さ
ピーター視点で話が進むので、グリフィンの第一印象は最悪。
病院での話し方も威圧的で嫌な感じでしたし。
1周目に読んだ時は、まさかピーターとグリフィンが以前付き合っていて、最終的にグリフィンと落ち着くとは予想していなかったので、判明した瞬間「相手はお前か!」とちょっと驚いてしまいました。
ただ、「前に付き合ってて別れたグリフィン」を念頭に置いて、2周目に読み返すとですね、言葉の端々に彼の可愛さが見えるというか。
萌えるセリフが散りばめられてまして。
病院で「僕はあなたを知ってますか?」とピーターが尋ねた時の反応とか。
“Do I know you?” There was silence. The gray-blue eyes — which looked more gray than blue — narrowed. “Are you saying you don’t?”Source : Don't Look Back
(「僕はあなたを知っていますか?」沈黙。グリフィンはブルーグレイの瞳-青よりも灰色に近く見えた-を細めた。「知らないと言っているのか?」)
さらに翌日、ピーターのバンガローへ尋ねてきた時のセリフ。
“You’re still claiming you don’t remember anything?”Source : Don't Look Back
(「まだ何も思い出せないって?」)
「何も」が強調されてるセリフ。
別に事件のことは覚えてなくてもいいけど、グリフィンのことも覚えてないの?と尋ねてるのかなーとニヤニヤしてしまいます。
こんな感じで、彼の言葉や行動の端々に、ピーターへの愛情が垣間見える気がして、すごく小さな種火レベルのロマンスを感じずにはいられない。
ピーターの人生整理
結局、暴漢に襲われたショックで、無意識に「覚えておきたくないこと」を忘れてしまったピーター。
コールに操られ続ける人生から抜け出したかったピーターが、事件によって人間関係を再構築し、新たな人生を歩むための物語だったんですね。
コール視点でのショートストーリーが読みたい
ピーター視点で話が進むので、コールの心情が今ひとつ描かれてないのが残念だったんですが。
まぁ、短編なので、あまり深堀は出来ませんし、逆によく分からないからコールが恐ろしく感じるという効果もあると思うけど。
ナルシストで、ピーターに異常な執着をしていて、ピーターが自分から離れそうになる度に、先回りして自分のところへ戻るように画策して彼を操る。
ピーターが手元に戻り、コールへの愛情を感じる度に、悦に入って欲しいし。
でも、ピーターを抱くこともなく、彼を弄んで欲しい。
自分が結婚することを伝えて、ピーターがショックを受ける様を見て喜んで欲しいし。
結婚式でベストマンとして、ピーターが感情を殺してスピーチしたり、笑顔で写真に写ってる姿を見て、満足げな表情を浮かべて欲しい。
そして、ピーターがグリフィンと出会い、恋に落ちていく様を見て、今までになくグッシャグシャに取り乱して欲しい。
コールは外見がハンサムで王子様っぽくキラキラしてればしてるほど、中身が腐ってる感じが際立って素敵だと思うの。
そんな可哀想なピーターのエピソードがあれば是非とも読みたい。
好きなシーン1: グリフィンの優しさ
To his surprise, Mike sat down next to him and pulled him, with impatient kindness, into his arms. “Cry if it’ll make you feel better,” he rasped. “But he’s not worth it.” Peter looked up, managing an unsteady smile. “No, but you were.”Source : Don't Look Back
(驚いたことに、マイクは隣に座り、急に優しく腕の中にへと抱き込んだ。「泣けよ。それで楽になるなら。」と命令するような口調で言う。「でも、彼にそんな価値ないよ。」ピーターは顔を上げ、泣きそうな笑顔を向ける。「あいつはそうだが、お前にはあるだろ?」)
いや、分かりますよ、ベッドまで待てない勢いと熱さとか。
コーヒーテーブルを蹴って退ける様子とか本当に熱かったです!
でも、こっちが落ち着かないんですよね、床で背中痛いだろうに、とか考えちゃって。
板のフロアじゃなくて、北米によくある剥がせないカーペットタイプの床だったんでしょうか?いや、それだと、もっと汚いだろうし…。
好きなシーン2: 堅苦しかったピーターが積極的に
“Oh my God, I want to fuck,” Peter moaned. Mike stopped kissing him and laughed. Peter opened his eyes. “Why are you laughing at me? What’s funny about that?” “You. You were always so prim and proper. I practically had to seduce you every time.”Source : Don't Look Back
(「あぁ、どうしよう、ヤりたい。」ピーターがうめいた。マイクはキスを止めて笑う。ピーターは目を見開き、「何で笑うんだよ?何がおかしい?」「お前だよ。お前はいつもすごく堅苦しかったから。俺はいつも誘惑しないといけなかった。」)
以前のピーターが「堅苦しい」と印象付けるような態度を取っていたのも、コールの存在が影響してたのかもしれませんね。
ピーターの気持ちはものすごくグリフィンに惹かれてるんだけど、コールへの恋心も捨て切れてなくて、無意識にグリフィンとは積極的に恋に落ちれなかった、みたいな。
好きなシーン3: 可愛げのない感じで可愛い
“I think you should… I think I’d like…” “That’s what I like about you, Professor Peabody. Your way with words.” Peter’s eyes opened. “Don’t call me that. Don’t make fun of me.” He was astonished when Mike’s face changed. “I’m not making fun of you. At least…not like that. You’re just…funny. Sort of cute.” “Cute?” “In an uptight, buttoned-down way, yeah.” He rubbed his nose against Peter’s. “Very. I like you. I told you that. I like you a lot.”Source : Don't Look Back
(「そういうところが好きなんだよ、ピーボディ教授。その言葉遣い。」ピーターは目を見開いた。「その呼び方はやめてくれ。からかわないでくれよ。」マイクの顔色が変わったので、ピーターは驚いた。「からかってるわけじゃない。少なくとも…そういう意味じゃない。お前はただ…面白いだけだ。可愛いと言うか。」「可愛い?」「ボタンを上まで全部きっちり締めた皺ひとつないシャツみたいな、まったく可愛げのない感じで可愛い。本当に──」マイクは鼻をピーターの鼻に擦り寄せた。「すごく。好きだ。言っただろ?すごく好きだって。」)
好きなシーン4: 控えめな勇気
“Hell. I guess I could have been a little more tactful. A little more patient.” “I could have been a little smarter.” “That’s for sure.” Mike relented slightly. “But maybe I could have been a little more honest too, because what we had was worth some extra effort.” Peter gathered his courage. “Was?” Mike stared at him for what seemed a long time. “Is,” he said finally.Source : Don't Look Back
(「もう少し気をきかせられたはずだし、もう少し我慢できたはずだ。」「それにもう少し賢くなれたかもしれない。」「そうだな。」マイクは少し譲って「だが、俺ももう少し正直になれたかもしれない。だって、俺たちの関係は努力する価値があったから。」ピーターは勇気を振り絞った。「あった?」マイクは長く感じるほどピーターを見つめた後「ある。」と応えた。)
日本語って英語ほど文法において時制が重要じゃないから、訳しにくいなーと思いつつ。
こういう現在形・過去形で言い直したりする会話、英語だとよく見かけますよね。
「好きだー!やり直そー!」と叫ばないあたりがね。いいですよね。
さ、ジョシュ・ラニヨンさんの短編が面白かったので、私はこれからモノクローム・ロマンス文庫さんから出てる短編を制覇する旅に出てきます。
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鞭が似合うとか、壇蜜に似てるとか言われる、M/Mロマンス小説とBLマンガ愛好家。
カナダ、バンクーバー在住。
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